事案の概要
兵庫県宝塚市の市立中学の元生徒側が部活顧問からの叱責を原因として校舎から飛び降りて重傷を負った事件で、市に対して、民事調停を申し立てた報道がありました(宝塚・中2女子転落重傷 元生徒側が市に賠償求める民事調停申し立てへ 神戸新聞NEXT 2022年6月9日)。
賠償に向けた協議や説明を約束しながら市は対応をせず、けがの回復が見通せない中で救済が不十分だったことが申し立ての背景とされています。
こういった場合に早期解決をはかるため民事調停は有効な手段です。
公立学校での事故は国家賠償法上の問題となる
市立小・中・高校のような公立学校での児童や生徒の事故は、地方公共団体の責任が問われる国家賠償法上の問題と位置づけられます。
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
国家賠償法1条1項
賠償は公金の支出問題となり議会の承認手続が必要
責任や賠償の主体が地方公共団体の場合、賠償をする場合の財源は税金となります。
公立学校の学校長には賠償の是非や賠償額を判断することはできません。
地方公共団体の長が専決処分(地方自治法180条)できる範疇のものでなければ、被害児童や生徒への損害賠償額を定めるためには、当該地方公共団体の議会の承認を経るという手続が必要となります。
いくらマスコミ報道等で当該事件についての社会的な批判が高まっている背景があっても、賠償金額について議会の承認を経ないと、地方公共団体は賠償ができません。
普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
十三 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。
地方自治法96条1項
この議会の承認を経るにあたり、民事調停が有効となります。
調停委員会は、地方公共団体側の言い分も聞いた上で、実情に即した調停案を示してくれます。
裁判所の関与の下で出された適正妥当な金額であるということが担保されるため、議会の承認が得られやすくなるのです。
裁判で争う場合は国賠訴訟となる
裁判で国家賠償法上の問題を争う場合、いわゆる国賠訴訟となりますが、国賠訴訟は、国側の勝訴率が高い事件類型です。
地方公共団体側は代理人をたてて争ってくるため事実関係の確定にも時間を要し、被害者側も弁護士を代理人に立てることがほぼ必須となるため、時間的にも経済的にも大きな負担となります。
また、地方公共団体は、裁判所の判決で出る賠償額は議会の議決を得る必要がありません(判決で出てしまった以上否決したからといって判決が覆るわけではないからです。)が、和解案で賠償額が出た場合は議会にはかる必要があります。
これは、国賠訴訟で和解をまとまりにくくする原因となっています。