宇治市で斎場が火葬後の骨を紛失したことによる損害賠償訴訟が調停に付されて解決

事案の概要

京都府宇治市で、火葬後の遺骨を遺族が拾う前に、職員が誤って骨の大半を集じん機で吸引したという事件がありました(誤って遺骨の大半を集じん機で吸引 遺族ら賠償求め京都・宇治市を提訴 京都新聞 2021年3月30日)。

事件が起きた宇治市斎場は、宇治市が設置するものであったため、遺族は、吸引された遺骨が他の遺骨と混ざって引き渡しを受けることができなくなり精神的苦痛を受けたとして、宇治市を相手として損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こしました。

訴訟は、民事調停に移行し、斎場の指定管理者の業者が解決金を支払うという内容で調停が成立しました(斎場の骨紛失、調停成立 業者が解決金支払う THE SANKEI NEWS 2022年6月27日)。

指定管理とは

宇治市斎場は、宇治市が設置するものでしたが、火葬業務など実際の斎場の運営は市から指定管理を受けた業者が行っていました。

指定管理を受けた業者のことを指定管理者といいますが、この指定管理者の制度は、地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号)によってできました。

これまで地方公共団体の出資法人や公共団体、公共的団体に限っていた公の施設の管理主体を、民間事業者やNPO法人等に広く開放するというものです。
指定管理者制度により、民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上や、施設管理における費用対効果の向上が可能となっています。

責任を負う主体

地方公共団体の責任

地方公共団体が指定管理者を使っているからといって、指定管理者の行為により利用者に損害が生じた場合、指定管理者だけが責任を負って地方公共団体は何の責任も負わなくなるというわけではありません。

国家賠償法1条1項は、公権力の行使に基づく損害の賠償責任を定めます。
この条文に規定された損害を与える主体である公務員は、法令により公権力の行使の権限を付与されていれば、身分上は私人であっても公務員に含まれるとされています。

そして、指定管理者は、地方自治法244条の2第3項により公の施設を管理するので、指定管理者の職員が公の施設の管理のために行った行為については、当該職員は国家賠償法1条の公務員に該当することとなります。

つまり、地方公共団体が指定管理者の職員が与えた損害を賠償する責任を負うこととなります。

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

国家賠償法1条1項

とはいえ、賠償責任が認められる公権力の行使は無限定ではなく、私経済作用(医療活動や電車、バスの経営など)は公権力の行使にあたらず、地方公共団体が責任を負わないという見解が通説、判例とされています。

指定管理者の責任

地方公共団体が責任を負う場合でも、指定管理者の責任がなくなるわけではありません。
指定管理者についていうと、当該職員には民法709条の一般不法行為が、指定管理者については民法715条の使用者責任が問題となります。

また、通常は、指定管理者と地方公共団体の間では協定等で内部の責任分担が定められており、地方公共団体が損害賠償をした場合でも、指定管理者に対し求償されることがあります。

付調停について

付調停の活用

訴訟が起こされて裁判所に事件が係属しても、裁判所は適当であると認めるときは、職権で事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができます(民事調停法20条 付調停)。
付調停は以下のような場合に活用されます。

医事関係,建築関係,知財関係,賃料の増減,騒音・悪臭等の近隣公害などの解決のために専門的な知識経験を要する事件についても,医師,建築士,弁理士,不動産鑑定士等の専門家の調停委員が関与することにより,適切かつ円滑な解決を図ることができます。こうした事件は,最初から調停事件として申し立てることもできますが,訴訟を提起した場合でも,調停委員の専門的知見を活用するために,事件が調停に移される(これを「付調停」といいます。)こともあります。

裁判所HP

なぜ付調停とされたのか

本件は、ここであげられている「医事関係,建築関係,知財関係,賃料の増減,騒音・悪臭等の近隣公害などの解決のために専門的な知識経験を要する事件」にストレートにあてまはるものではなく、訴訟を提起した原告代理人が、「金額や経緯の詳細は控える」と説明しているためなぜ調停に移行したかという事実関係は不明です。

しかし、報道を読む限りは、指定管理者が誤って火葬前の集じん機での吸引をしたこと自体には争いがなかったものの、遺族が提訴したのは宇治市だけであり、市側は「損害賠償は指定管理者の責務」と主張していたようです。
斎場の運営は私経済作用だから公権力の行使ではないという趣旨の反論だったのではないでしょうか。

職員による明らかなミスがあったことを指定管理者側は認めていたため、本件は本来であれば遺族に支払う慰謝料額をどうするかという問題に帰着します。

しかし、斎場の運営が公権力の行使かどうかという国家賠償法の解釈の問題が争われると、この点について双方に主張を尽くさせたり、仮に市側に責任を認めるとしても後日の指定管理者と市との求償問題を発生させることとなるため、訴訟経済の観点からも求償実務上も無駄が多くなります。
そのため、(訴訟段階か調停段階かはわかりませんが)指定管理者を参加させた上で、迅速な解決ができるように付調停としたのではないかと考えます。

住職の方が調停委員を務めることもあるようですね 1

脚注

  1. じっくり聞いて解決導く 調停委員務める住職 古谷清麿さん 朝日新聞デジタル 2023年2月25日