富山市が市営団地の立退問題で民事調停を申立て予定 5月に申し立て秋に解決!?

事案の概要

富山市が、取り壊しが予定されている市営の集合住宅「奥田団地」の立ち退きに合意していない入居者などを相手に、5月にも和解に向けた民事調停を申し立てるという報道がありました(富山市が取り壊し予定…市営「奥田団地」立ち退きで『和解に向けた民事調停』申し立てへ FNNプライムオンライン 2023年3月23日【リンク切れ】)。

このニュースで注目すべきはタイムスケジュールです。

富山市は、5月中旬にも申し立てることにしていて、秋ごろまでの和解を目指したいとしています。

5月中旬に申し立てを行い、秋ごろまでの和解を実現するというタイムスケジュール感は、裁判ではなかなか実現不可能なペースです。

スケジュール感の違い

裁判の場合

第1回期日

裁判の場合、5月中旬に訴訟提起を行った場合、第1回期日自体は6月下旬から7月の頭頃に入ることが予想されます。

しかし、第1回期日では、被告側からは実質的な主張が出てくることはあまりありません。被告側からの具体的な反論は、第2回期日で出てきます。

被告側からは答弁書という反論書面こそ出ますが、通常この内容は、「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」「(原告の請求原因に対しては)追って認否・反論を行う」というような1頁にも満たないものです。形式答弁といいます。

第2回期日

夏には、裁判所には夏期休廷といって法廷が開かれない時期があるため、第2回期日が入るのは9月の頭頃となるでしょう。

この第2回期日で(書面の提出期限は1週間前なので期日前には内容を知ることができます)被告の具体的な言い分がはじめて主張されます。

原告側も、被告の主張立証に対して反論が必要となるため、第2回期日では、基本的には、「次回(第3回期日)までに原告から今回出た被告書面に対する反論を提出して下さい」という内容で終わります。双方の主張に不明点等があれば別途追加で出すよう指摘は入ります。

第3回期日

10月頃に開かれる第3回目の期日で原告が反論を行います。和解の話は、できるとしてもこの期日以降となる可能性が高いです。

第3回目の期日で話がまとまるということはまずないでしょう。

民事調停の場合

民事調停の場合には、相手方がきちんと出席してくれればという留保付ではありますが、第1回期日から、申立書に対する相手方の反応を調停委員会を通じて聞くことができます。

また、1期日内で、申立人と相手方は交互に調停室に入退室する形で調停委員会と話をします。そのため、申立書に対する相手方の反応を聞き、それに対してさらに意見を伝えてもらうというキャッチボールを続けることができます。

調停では3回目までで解決する事案が多数にのぼっているのはこのような裁判との流れの違いによります。

5月中旬に裁判所への申立てを行い、秋ごろに解決するというのは民事調停では決して実現不可能な話ではありません。

どちらの手段がいいか

裁判と比較すると圧倒的に早い解決がのぞめる民事調停ですが、相手方がそもそも建物が老朽化していないとして明渡の義務自体を徹底的に争うという姿勢で話し合う余地がないような場合は、調停の申立てをしても不成立となったり、17条決定が出ても異議を出されるかもしれません。

このような場合は、調停を起こすよりも、最初から訴訟を起こす方が結果として早い解決となることがあります。

しかし、民事調停では、建物の老朽化や朽廃を問題とする場合、専門家調停委員として建築士を含む調停委員会が現地調査、現地調停を行ってくれることもあります。
こういった現地確認を経た上で調停委員会が心証を開示して解決の方向性を示すことで、当初は全面的に争う意向を示していた相手方が折れてくるということもあります。

奥田団地側のメリット・デメリット

奥田団地は、完成から既に50年以上が過ぎており、耐震基準も満たしていないと報じられています。

一般的に、建物がこのような状態であれば、裁判で入居者側が争っても、一定額の立退料と引き換えにすることで、明け渡しの請求自体は認められる可能性はかなり高くなります。

調停で解決しない場合、市が裁判に持ち込むことは間違いないでしょうから、奥田団地側としての調停で解決しないメリットとは、訴訟が係属している間、具体的には1年か2年程度、今の場所に居続けることができるという事実上のもの程度ではないでしょうか。

他方、デメリットは、弁護士費用や調停に引き続き長引く裁判を行うことに時間的、精神的な負担です。調停はともかく、裁判で争う場合、弁護士をつけて訴訟追行しないと困難なため、どうしてもその分の弁護士費用が余分にかかります。

争点が立退料の金額の問題に収斂する事案という前提ではありますが、調停での早期解決は奥田団地側にとってもメリットがある選択肢と考えられます。