調停をしないと裁判が起こせない事件
借地借家法における2つの事件
問題を解決したいとき、民事調停を起こすか、民事訴訟を起こすかというのは、紛争の実態や弁護士を頼むかといった事情から、自分で選ぶことができるというのが原則です。
しかし、例外として、借地借家法における2つの事件については、民事訴訟を起こす前に民事調停を起こすことが必要とされています。これを調停前置主義といい、弁護士をつけるかどうかに関わりません。
まずは民事調停での解決を試みることが必要で、もし調停で解決しなかった場合にのみ民事訴訟が起こせることとなっています。
- 地代等の増減請求(借地借家法11条)
- 建物借賃額の増減請求(同32条)
調停を先に起こさないといけない理由
土地の賃借料である地代、家賃である建物の借賃は、いずれも貸主と借主との継続的な賃貸借という法律関係について発生するもので、増減後も関係は続きます。
そのため、判決による判断を受けるよりも、当事者間の話し合いや互譲により円満に解決されることが望ましい問題として、調停前置主義が採用されています。
また、相手の住所がわからず、話し合いできる見込みがない件については調停は不向きですが、不払で解約を争うのではなく、地代や建物賃料の支払が定期的にありつつその金額の変動を争う増減請求であれば、この点の問題も生じません。
間違って裁判を起こすと調停に付される
調停前置主義が採用されたこれらの問題について、もし調停の申立てを起こさずに民事訴訟を起こした場合は、訴えが係属した受訴裁判所は、その事件を調停に付することとなります。
裁判を起こしても調停になる場合
任意的な付調停という制度
民事訴訟を起こした場合、調停前置主義の件ではなくても、裁判所が事件を調停に付すことがあります(任意的な付調停)。
受訴裁判所は、適当であると認めるときは、職権で、事件を調停に付した上、管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし、事件について争点及び証拠の整理が完了した後において、当事者の合意がない場合には、この限りでない。
民事調停法20条1項
これは、受訴裁判所が適当であると認めるときに行われるもので、たとえば、民事調停における専門委員の知見の利用が有用と考えられる建築紛争などで積極的に活用されています。
付調停となった場合に訴訟はどうなるか
訴訟は、調停が成立した、もしくは、17条決定が確定したときは、訴えの取り下げがあったものとみなされます(民事調停法20条2項)。
付調停にされたが、当事者間の対立が大きく合意の形成ができずに不成立となったり、17条決定に対して異議が出された場合には、手続は民事訴訟の審理に戻ります。
改めて訴訟を起こす必要はありません。