管轄合意の有効性
民事調停事件の申立ては、管轄のある裁判所に対して行う必要があります。
管轄のある裁判所は、基本的には、「法定の管轄裁判所」欄記載の裁判所ですが、当事者間で「合意による管轄裁判所」欄記載の裁判所を管轄裁判所とすることを合意した場合には、その裁判所にも管轄があることとなります。
このように、管轄裁判所について、当事者間に合意の書面がある場合には、第一審を行う地を自由に選ぶことができることを合意管轄といいます(民事訴訟法11条)。
当該契約から生じた紛争について、どこで裁判を行うかという合意管轄の条項は、事業者間や、対事業者の契約書であれば現在一般的となっています。個人同士であっても、たとえば仲介業者が用意する不動産の賃貸借契約書では合意管轄の条項が定められていることが多いようです。
しかし、契約書に合意管轄の定めがあっても、必ずしもその管轄合意が有効とは限りません。以下は、民事調停で特に問題となりやすい管轄の注意点です。
合意管轄が調停を対象としたものか
まず、管轄の合意が調停をその対象としているのかという点が問題となります。調停ではなく、訴訟トラブルのみを念頭に置いて作成された条項をがある場合、どう扱うかという問題です。
この点が裁判上争いとなった事例があります。
契約書中、「この契約について訴訟の必要が生じたとき」に特定の裁判所を管轄裁判所とすることに合意する旨の条項があり、同契約書から生じた紛争について、その特定の裁判所に対して調停が起こされ、相手は、特定の裁判所を管轄裁判所とするというのはあくまで訴訟についてだけであり、調停に関する管轄合意はないと争いました。
結果として、同条項は訴訟のみの管轄合意であり、調停についての管轄合意があるとはいえないと判断されました(大阪地裁平成29年9月29日決定)。
たとえば、「本契約に関する一切の紛争(裁判所の調停手続きを含む)は、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する」というような合意で、調停を含む旨が明らかでない場合には、管轄合意があっても有効性が問題となりえます。
宅地建物調停の特殊性
宅地建物調停の管轄には特に注意すべきです。
それは、合意による管轄裁判所が、任意の地方裁判所または簡易裁判所ではなく、紛争の目的である宅地又は建物の所在地を管轄する地方裁判所(24条)とされていることです。
たとえば、東京の会社が神奈川、千葉、埼玉にある物件の賃貸借契約の当事者となり、自社に便利な東京地方裁判所で管轄合意を事前に取り決めていても、宅地建物調停を東京地方裁判所に申し立てることはできません。
この場合、神奈川、千葉、埼玉の当該物件の所在地を管轄する簡易裁判所が管轄となります。なお、当該物件を管轄する地方裁判所、たとえば横浜地方裁判所や千葉地方裁判所、さいたま地方裁判所での管轄合意は有効です。
宅地建物調停であっても、建物や土地の明渡しを求めたり、相隣関係などの類型であれば、調停を経ずに訴訟を提起し、東京地裁での審理を行うこともできるのですが、地代や賃料の増減請求に関する事件については、調停前置が必要となっており(民事調停法24条の2)、訴訟を起こす前にまず調停を経る必要があります。