本人訴訟をするなら民事調停を考えてみよう(特に地裁)

弁護士をつけないで裁判を起こすこと自体はできるが……

裁判をする場合、簡易裁判所であっても、地方裁判所であっても、弁護士をつけずに裁判をすること(本人訴訟)自体は認められています。

しかし、弁護士をつけずに一般の方が通常民事訴訟1をすることはあまりおすすめできません。

裁判で求められるもの

民事訴訟においては、裁判官を読み手とする説得的かつ倫理的な法律文書が求められています。

当事者双方から出された主張や証拠と立証責任に基づいて勝ち負けを判断するのが裁判官の仕事で、裁判官に自分の言い分を認めてもらうのに最も効果的なのは法的にきちんとした書面や証拠を出すことです。

自分の請求が何という法律の何条に基づくものなのか、また、その条文の適用の前提となる事実関係が何なのかという主張と、その事実関係を立証できるだけの証拠が必要となります。これは、経験を積んだ弁護士でないと難しいです。

裁判を起こす原告側の場合、自分の請求に理由があることを原告が主張・立証する必要があり、主張・立証が足りない請求は棄却となります。
逆に、裁判を起こされた被告側としては、原告の請求を覆す側としての主張・立証が足りないと原告の請求が認められてしまうこととなります。

本来勝てるはずの事件であっても、主張や立証がまずかったがゆえに負けてしまうということもありえるのです。

特に地方裁判所では本人訴訟をおすすめしない理由

結果が重大となりがち

トラブルの目的物の価額が140万円以上であれば、簡易裁判所に管轄はなく、地方裁判所で審理が行われます。
地方裁判所の事件で仮に敗訴した場合、不利益は数万円や数十万円では済まず、価額が大きい分だけ敗訴した際の痛手も大きくなってしまいます。

司法委員がいない

簡易裁判所の民事訴訟手続では、司法委員が関与することがあります。
司法委員は、裁判官が和解を試みるときにその補助をしたり、審理に立ち会って、裁判官に参考となる意見を述べたりする存在です(民事訴訟法第279条第1項)。

司法委員は和解の前提となる当事者の言い分を詳しく聴取し、和解案を作成したり、当事者の説得に当たることがあります。

たとえば、和解の成立に必要と考えられる場合など、言い分を十分に聞いてほしい当事者に対し、司法委員が事案の本筋とは多少ずれる話や背景、思いなどを聴いてくれ、納得した上での和解ができることもあります。
本人訴訟の事案では司法委員の存在に救われることもあるでしょう。

しかし、地方裁判所の民事訴訟手続では司法委員の関与はありません。

弁護士の関与率が高い

簡易裁判所を第一審とする通常訴訟既済事件(少額訴訟から通常移行したものを含む)のうち、当事者の双方もしくは一方が弁護士又は司法書士2をつけた割合は、329,856件に対して、双方弁護士がついた事案は78,206件です。
通常は弁護士をつけない少額訴訟から移行したものも総数に含まれるとはいえ、本人訴訟の割合は低くはありません。

しかし、地方裁判所を第一審とする通常訴訟既済事件をみると、当事者の双方が弁護士をつけた事案は、総数が139,011件に対し67,393件(原告側だけが57,294件、被告側だけが4,143件)と約半数を占めます。
なお、双方もしくは一方が弁護士をつけた割合は128,830件と実に90%を超えています。

地方裁判所においては、弁護士の必要性を認識する人がこれだけ多いということが数字からも伺えます3

脚注

  1. 少額訴訟や支払督促は通常民事訴訟ではなく、弁護士をつけないで行うことも十分可能な手続きです。
  2. 法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所において取り扱うことができる民事事件(訴訟の目的となる物の価額が140万円を超えない請求事件)等についての代理業務を行うことができます。
  3. 令和3年度司法統計による。