交通事故被害者なのに調停を起こされた

被害者が調停を起こされる場合もある

交通事故被害者が調停を起こされる場合があります。債務額確認調停や、債務不存在確認調停です。

債務額確認調停とは、加害者側が被害者側に対し、自分の負う交通事故による損害賠償債務は、自分の主張する金額を超えては存在しない、ということの確認を求めるために起こす調停です。

債務不存在確認調停とは、自分の負う交通事故による損害賠償債務はそもそも存在しないということの確認を求めるために起こす調停です。

調停が起こされる場面

債務額確認調停や債務不存在確認調停が起こされる場合としては、以下のような場面が挙げられます。

  • 加害者や保険会社と被害者との間で合理的な交渉ができない場面
  • 事故による受傷自体が争われている場面
  • 事故による受傷自体に争いはないが、被害者の治療期間が長引いてなかなか症状固定診断に至らない場面

合理的な交渉ができない場面

加害者や保険会社が被害者に対して事故に対する一定の賠償を提案しても、被害者側がこれに納得できず、交渉が膠着してしまうという場合があります。

交通事故における賠償の範囲や、損害の算定方法については、これまでの裁判例等の積み重ねにより、基準化が図られています。

そのため、基準から離れた要求に被害者側が固執するような場合、加害者側から、損害賠償債務は自分の主張する金額を超えては存在しないという趣旨で債務不存在確認調停が起こされることがあります。

事故による受傷自体が争われている場面

近時はドライブレコーダーを搭載する車が多くなり、後から客観的に事故時の状況を確認できることが増えました。
そうすると、被害者は受傷を主張しているが、ドライブレコーダーの映像をみると本当にその部位を事故で受傷したのか疑わしいというような場合がでてきます。

たとえば、被害者側が頸部捻挫(むち打ち)の被害を主張しているが、ドライブレコーダーの映像からは頸部等に衝撃を受けた様子が見られないような場合です。

こういった場合は、物損での示談は別途、人身については、そもそも受傷していないという点で債務不存在確認調停が起こされることがあります。

治療期間が長引いてなかなか症状固定診断に至らない場面

事故による受傷自体に争いはなくとも、被害者の治療期間が長引いてなかなか症状固定診断に至らない場面でも債務額確認調停が起こされることがあります。
症状固定とは、簡単にいうと、これ以上治療をしてももうよくなることはないという状態のことをいいます1

多くは、事故態様や車輌の損傷状況からは、被害者の受傷の程度は軽微な頸椎捻挫や腰椎捻挫で数か月程度の治療で治癒することが推測されるけれども、被害者がまだ治療が必要と主張して1年2年と病院に通い続けるような場面です。

また、比較的大きな事故で、脳脊髄液減少症や高次脳機能障害などの重度の後遺障害が主張されたり、精神障害の症状が訴えられるといった場面でも債務額確認調停が起こされることがあります。

こういった大きな事故の場合には、加害者側も、事故から数年の間は治療やリハビリ、経過観察等の必要性を理解してくれることが多いです。
しかし、事故から5年や10年近く経過するような場合、さすがにもうこれ以上治療による改善の見込みはない状態を過ぎているだろうとして、債務額確認調停が起こされることがあります。

脚注

  1. 正確には、療養をもってしてもその効果が期待しえない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときをいう。佐久間邦夫・八木一洋「リーガル・プログレッシブ・シリーズ交通事故関係訴訟【補訂版】」