市立中学の身だしなみ校則を争う大分の民事調停はどうなったのか 顛末と校則問題についての最近の動き

校則問題についての最近の裁判事例

東京地裁令和4年11月30日 男女交際禁止

事案の概要

芸能人を多数輩出している私立堀越高等学校で、男女交際を禁じた校則に違反したとして自主退学を勧告され、退学した元生徒の女性が高校側に損害賠償を求めました。

  • 校則が社会通念に照らして不合理で無効か
  • 学校長が自主退学勧告の違法性(裁量権の逸脱、濫用があるか)
  • 校則違反について受けた事情聴取の違法性

以上の3点が争点となりました。

裁判所の判断

裁判所は、以下のように述べ、校則自体は有効なものと判断しました。

私的な事柄である男女交際につき、生徒が自らの判断で決定する自由を制約する面を有するということはできる。しかしながら、(中略)本件校則は、本件高校における在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容は、本件高校の教育方針等に鑑みれば、社会通念に照らして合理的なものであるということができる。

また、事情聴取については、校則に違反していると疑わざるを得ない状況にあった原告に対し、違反しているか否かを確認するために行われたもので、教育的措置の要否等を検討するために必要な行為であったと位置づけました。
その上で、聴取の際の態様が威圧的でなかったこと等から、事情聴取は不法行為法上違法であるということはできないとしました。

他方、自主退学勧告については、校則違反の態様、反省の状況及び平素の状況、自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響等の点を踏まえて事実関係を検討し、校長が有する教育上の裁量の範囲を超えるものとして違法性を認め、一定の損害賠償を認めました(97万5426円)。

大阪高裁令和3年10月28日判決 頭髪の染色禁止等

事案の概要

大阪府立の高等学校に在籍していた女子生徒は、教員らから頭髪指導として校則に従い茶色い頭髪を黒く染めるよう繰り返し指導を受け、授業等への出席を禁じられるなどしたことから不登校となりました。
生徒は登校しなくなった後、まだ学校に在籍しているにもかかわらず生徒名簿から氏名を削除されたり、机と椅子を教室から撤去されるなどの措置を受けました。

これらの学校の対応により、著しい精神的苦痛を受けるなどの損害を受けた旨主張して、生徒は損害賠償を請求しました。

  • 校則及び指導方針の違法性の有無
  • 頭髪指導の違法性
  • 不登校となった後の措置

以上の3点が争点となりました。

裁判所の判断

裁判所は、一審、控訴審ともに結論を同じくしました。

校則等の制定については、本件高校が、学校教育法上の高等学校として設置されていることから、以下のように校則の制定について幅広い裁量を認め、校則での規制を違法なものとはしませんでした。

(本件高校は)設置目的を達成するために必要な事項を校則等によって一方的に制定し、これによって生徒を規律する包括的権能を有しており、(中略)包括的権能に基づき、具体的に生徒のいかなる行動についてどの範囲でどの程度の規制を加えるかは、各学校の理念、教育方針及び実情等によって自ずから異なるのであるから、本件高校には、校則等の制定について、上記の包括的権能に基づく裁量が認められ、校則等が学校教育に係る正当な目的のために定められたものであって、その内容が社会通念に照らして合理的なものである場合には、裁量の範囲内のものとして違法とはいえないと解するのが相当である。

そして、頭髪指導についての違法性は認めませんでしたが、名簿からの氏名削除、教室からの机と椅子撤去といった措置については、真に原告の登校回復に向けた教育環境を整える目的をもってされたものとは認められず、目的との関係でも手段の選択が著しく相当性を欠くとして違法性を認め、一定の損害賠償を認めました(33万円)。

文部科学省からも校則の見直しについての注意喚起がされた

最近の裁判例からみられるように、裁判所は、校則違反後の学校の処分については違法性を認めることがあるものの、校則自体には学校の裁量を広く認める傾向にあることがわかります。

とはいえ、校則の中には制定されてから何十年も経過するが改定されていないなど、外部から見ると今の時代にそぐわないのではないかという疑問を持つようなものが存在することも事実です。
SNS等で生徒や家族など個人が容易に発信できるようになり、これまで見過ごされていたものが「ブラック校則」と名称を与えられ、社会的な関心が集まることも増えてきました。

このような社会的な流れを受けた文部科学省からは、令和3年6月8日付事務連絡において、「校則の見直し等に関する取組事例について」という文書が出されています。本文書では、

学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため,校則の内容は,児童生徒の実情,保護者の考え方,地域の状況,社会の常識,時代の進展などを踏まえたものになっているか,絶えず積極的に見直さなければなりません。

校則の見直し等に関する取組事例について

と、校則の見直しの必要性について注意喚起がなされるとともに、教育委員会や学校における校則の見直し等に関する取組事例がまとめて紹介されることとなりました。

文部科学省からこのような文書が出たということは、今後、各学校での校則の見直しが加速し、見直しがされていないままの校則を運用する学校には、これまで広範な裁量を学校に認めていた裁判所の判断も変わってゆくかもしれません。