事案の概要
東京地裁平成17年6月29日判決(損害賠償請求事件)をベースとした事案における、飼主である加害者側から民事調停を行う際の申立ての趣旨や紛争の要点、添付書類の一例です。
慰謝料を250万円、被害者の過失割合を7割とし、飼い主には弁護士費用等も含めて86万2166円を支払うようにとの判決が出ています。
玄関前の柱につないでシベリアンハスキーを飼っていたところ、ハスキーが通りがかったAさんを咬んでしまいました。
他の人も通れる場所につないではいましたが、普段は大人しく、何もしなければ咬むような犬ではないです。
治療費以外に慰謝料300万円を請求するという連絡がきましたが高すぎます。
妥当な損害賠償額を調停で話し合うという方法があります。
大人しく、何もしなければ咬むような犬ではないとのことですが、どうしてAさんが咬まれたのか、心当たりや気になる点はありますか。
Aさんは大人ですが、咬まれたのは口の部分です。うちの犬は立ち上がっても1mもないのでAさんの口には届きません。
うちの犬が飛びついてきたと言われていますが、口以外は怪我をしておらず、本当に飛びついたのなら、引っかき傷などが頬や首にもできるはずです。
Aさんも犬を飼っているそうなので、うちの犬をしゃがむ体勢で構おうとしていたのだと思います。
なるほど、そのあたりのことも紛争の要点で書くといいですね。
過失相殺が認められる事情になりそうです。
申立ての趣旨
申立人の、相手方に対する相当な損害賠償額の決定を求める
紛争の要点
ハスキーの飼育
私は2015年頃からハスキー犬を飼っています。
私が住んでいるのはアパートで、大家さんには犬小屋を通路に置かせてもらっています。
昼間は玄関近くにある柱に2mほどの紐でつないで飼っていました。
人を咬むことを警告したり、近寄らないようにという注意を促す表示まではしていませんでしたが、私の部屋の玄関ドアには、保健所からもらった「犬」というシールを貼っていました。
アパート敷地の出入口には門はなく、駐車場を兼ねた中庭には、道路から自由にアパートに住んでいない人や車両が出入りできるようになっていました。
事件の発生
2022年の8月4日、Aさんが私の犬に咬まれるという事件が起きました。
Aさんは、私とは面識のない人で、その日は同じアパートの別の部屋の友人を訪ねてきたそうです。
Aさんの主張
友人の部屋に行くため、私が犬を紐でつないでいた柱付近を歩いていたところ、私の犬がいたので、2、3秒、立ち止まって見ていたら、突然、私の犬が、前足をAさんの頬や首のあたりに掛けて唇に咬み付いてきたと言っています。
また、私の犬は、首を振るようにしてAさんを引っ張り、Aさんは、右手で私の犬を強く押し戻して、解放された瞬間にしりもちを付いたとも言っています。
Aさんの主張について
私の犬が立ち上がった場合、口部分は地上から約1mの位置となりますが、Aさんは成人女性で、身長は約160cm程度と思われます。
私の犬が後ろ足を地面に付けた状態で、立っているAさんの口に咬みつくことは物理的に不可能です。
また、私の犬がジャンプで飛びついて口に咬み付いたなら、前足によるひっかき傷がAさんの頬や首などにあるはずですが、Aさんは口部分以外は怪我をしていません。
Aさんは、ビーグル犬を飼っており、自分も犬が好きと聞きました。
きっとAさんは、私の犬がいるのに気付き、近づいてしゃがんで私の犬の口に自分の口を近付ける姿勢をとって遊んでいたときに、事件が発生したのだと思います。
なお、私の犬が、これまで通路を通る人に咬み付いて事件になったということはありません。このことは大家さんもよく知っています。
交渉の経緯
治療費や、お見舞金を支払うといった提案は私からもしており、病院にはお見舞いも行きました。
しかし、Aさんからは、口部分に幅1mmから3mm、長さ0.8cmから2.5cmの傷痕が残ったことから、治療費だけではなく、慰謝料を300万円求めるという書面が届きました。
あまりに高額で、また、一方的に私や私の犬が悪いような主張で、話し合いでの解決ができないため、民事調停の申し立てをいたしました。
証拠資料
- 事件発生場所の見取り図や写真
- 犬の写真(立ち上がったときの位置が何センチかわかるもの)
- Aさんの治療費の領収書、慰謝料を求める書面
- こちらからの提案書面