【文例3】マンションの下の階に住む人がベランダでタバコを吸うのでやめさせたい

事案の概要

名古屋地裁平成24年12月13日判決(損害賠償請求事件)をベースとした事案における、上階住人からの民事調停を行う際の申立ての趣旨や紛争の要点、添付書類の一例です。

判決は、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することがあり得るとして、下階の住人に5万円の損害賠償を認めました。

真下の階のAさんが毎日のように自分の部屋のベランダでタバコを吸っています。

窓を開けていると私の部屋にタバコの煙やにおいが充満するようになり、ストレスで帯状疱疹や不眠も発症してしまいました。

空気清浄機や扇風機での対処にも限界があり、Aさんにやめてほしいとお願いしたのですが、マンションの使用細則でベランダでの喫煙は禁止されていないと主張されました。たしかに禁止されていないようなのですが……。

住居やベランダなど人の居住する場所は、望まない受動喫煙の防止を目的とする改正健康増進法1の適用除外ですが、自分の部屋のベランダなら何をしてもいいというわけではありません。

喫煙が健康に悪影響を与えることは周知の事実です。他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながらやめなかったり、防止する措置もとらない場合は、不法行為となることもあります。

これは使用規則でベランダ喫煙が禁じられていなくてもです。

Aさんからは、先に住み始めたのは自分の方だ、後から来て文句を言うなとも言われているのですが、それでも大丈夫でしょうか?

内見のときに下の階からの喫煙の害があるかというのは、通常はわかりません。

あえてタバコの煙の被害がある場所を選んだわけでもないですし、入居前の調査不足だったとはいえないでしょう。

申立ての趣旨

相手方は、●●(Aさんの住所、号室)のベランダで喫煙しないこと

紛争の要点

Aさんの喫煙

私は、平成20年2月から、今のマンションの509号室に住んでいます。Aさんは、それより以前から私の真下の409号室に住んでいました。
509号室と409号室の間取りは同じで、リビングの外にベランダがあるという作りです。

平成22年の4月ころから、毎日、タバコの煙が下の階から立ち上って私の部屋に入ってくると感じるようになり、このころからせきが頻繁に出るようになりました。

私は近隣の方から、Aさんがベランダで喫煙していること、Aさんが退職して平成22年の4月からは家にいることなどを聞き、自室のベランダから覗いて、Aさんがベランダで喫煙しているのを確認しました。
確認できるだけでも毎日5本以上はベランダでタバコを吸っているようです。

喫煙による被害と私のした煙の防止措置

Aさんの喫煙で、自室にタバコの煙やにおいが充満するようになり私はストレスを感じ、帯状疱疹まで発症することとなりました。
私は過去に小児喘息を患ったこともあり、タバコの煙には恐怖感を持っています。不眠にもなり、動悸がすることもあり、大変な被害を受けています。

また、私自身としては、タバコの煙が室内に入ってくるのを防止するため、ベランダをビニールシートで覆い、毛布を掛け、さらに扇風機3台、空気清浄器2台を設置して、室内のタバコの煙を外へ出すなどして、できる限りの措置を講じています。

交渉の経緯

私は、平成22年5月2日ころ、Aさんに、自分が喘息で、帯状疱疹等を発症したという被害を訴え、ベランダでの喫煙をやめてほしいという手紙を出しました。

また、ベランダで喫煙中のAさんに直接声をかけ、家のなかで吸ってほしいと伝えたり、私の娘から電話でベランダでの喫煙をやめてほしいと伝えてもらったりもしました。

しかし、Aさんは、マンションの使用細則でベランダでの喫煙は禁止されていないとか、先に住み始めたのは自分の方だ、後から来て文句を言うなという主張ばかりで、話し合いでの解決ができないため、民事調停の申立てをいたしました。

証拠資料

  • 診断書
  • Aさんがベランダでタバコを吸っている写真
  • タバコの煙に気づいた日時、時刻のメモ
  • マンションの部屋の位置関係図
  • Aさんに出した手紙の控え
  • 煙を予防するためにした措置の写真

脚注

  1. 健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号)。原則屋内禁煙をベースに各種施設での分煙ルールを強化。