民事調停を申し立てたら、きちんと対応するから調停を取り下げてほしいと相手に頼まれた

民事調停の取り下げについて

原則としていつでも取り下げはできる

民事調停を申し立てた側は、調停の係属中、調停に変わる決定(17条決定)がなされるまでの間は、自由に申立てを取り下げることができます。

そのため、いったん民事調停を申し立て、期日が指定されていても、また、既に何度か期日が実施された段階でも、相手の要望に応じて取り下げをすること自体は可能です。

調停の申立ては、調停事件が終了するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。ただし、第十七条の決定がされた後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。

民事調停法19条の2

17条決定の後は相手の同意が必要

申立てを受けてすぐに調停を取り下げてほしいと頼まれたような場合は問題となりませんが、17条決定がされた後は自由に取り下げはできなくなります。

17条決定とは、調停が何度か実施され、当事者双方の主張を調停委員会が把握して調整を行ったが、調停が成立する見込みがないときにおいて、裁判所が相当であると認める場合、事件解決のために示す解決案をいいます。

この17条決定がなされた場合は、相手方も、裁判所の決定の内容に従った紛争の解決を期待することがあります。
そのため、取り下げをするには相手方の同意が必要となります。

裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

民事調停法17条

取下げはできなくとも、出た17条決定の内容に納得ができない場合には、決定の告知を受けた日から2週間の間は、異議の申立てができ、異議の申立てによって決定の効力はなくなります。

取り下げと手数料

民事訴訟費用等に関する法律は、9条3項で、民事調停を取り下げた際の手数料の還付について定めています。

民事調停第一回期日が終了する前に民事調停の取り下げを行った場合、裁判所に納めた手数料の半額の還付を受けることができます。
ただし、納めた手数料の半額が4000円未満となる場合には、納めた手数料から4000円を差し引いた額の還付となります。

還付を受けるには、申立ての取下げをするだけではなく、手数料還付を求める申立てを自分で別途行う必要があります。

取り下げの要望を受けたらどうすべきか

取り下げても問題のない場合

民事調停を申し立てると、相手には申立書類や調停日時についての連絡が裁判所から送られます。

これまで交渉や自分での書面送付では誠実な対応をしてくれなかった相手でも、裁判所からの連絡を受けて驚き、きちんと対応するから裁判所には行きたくないと態度を軟化させてくることがあります。

調停外できちんと話し合いができ、金銭の支払いや建物の明渡し、謝罪など、申立てをした調停で目的となっていた内容が実現したのであれば、調停の場で更に話し合いをする実益はないため、取り下げには何の問題もありません。

また、相手が裁判所から書類が届いたことで本当に反省し、きちんと話し合いが進むのであれば、信頼した上で取り下げるということも選択肢となります。

取り下げは慎重に

しかし、そもそも民事調停となったのは、相手がこれまできちんと対応をしてくれなかったからです。
本当に対応するつもりまではなく、相手はただ裁判所に行きたくないためその場しのぎで対応すると言ってきている可能性もあります。

相手の要望を受けてすぐに民事調停を取り下げたはいいが、結局対応してもらえなかったという事態も想定しておかないといけません。

また、いったん民事調停を取り下げると、その民事調停は終了してしまうため、やっぱり話がつかなかったから再開したいと思っても、また最初から申立てを行う必要があります。
第一回期日前の取り下げであれば、一定の手数料の還付はありますが、再度申し立てを行う場合には、満額の手数料を支払う必要があります。そのため、

  • 期日までに問題が解決したら取り下げる
  • 裁判所外でも話し合いに応じたり提案を聞いたりはするが、解決しない可能性も見据えて調停は取り下げず維持する

というようなスタンスを示し、相手に早く解決しないとという気持ちを起こさせることもポイントとなってきます。