市立中学の身だしなみ校則を争う大分の民事調停はどうなったのか 顛末と校則問題についての最近の動き

事案の概要

子どもが進学を検討している大分市立中学校の過剰な校則が生徒の人権を侵害するものとして、弁護士の父親が大分簡裁に民事調停を申し立てた事件がありました。

親が子どもに校則を守らせる義務がないことの確認を市と学校に求めたもので、子どもではなく、申立人は親です(後ろ髪は襟にかからず・靴は白のひも付き…「過剰な校則、生徒の人権侵害」父親が調停申し立て 読売新聞オンライン 2022年3月11日)。

問題となっている学校の校則には、以下のような内容がありました。

  • 制服は男女別
  • 靴は白のひも付き運動靴
  • 後ろ髪は襟にかからない(男子生徒)
  • 三つ編み、編み込み、ポニーテールなど派手な束ね方は禁止(女子生徒)
  • ゴムやヘアピンは地味な色合いのものを使う(女子生徒)

民事調停はどうなったのか

申立て後の経過についての報道は見当たりませんでしたが、申立てを起こした当該弁護士の父親である楠本敏行弁護士により、その顛末が報告されていました(中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末 自由法曹団1団通信 第1780号)。

進学を検討していた子どもが別の公立中学校を受験して、当初予定の中学校へ進学しないことになったことから、

(申立人の子どもが)現在当該中学校に在籍していないし近日中に在籍する予定もない、当該学校の生徒や保護者から不満の声は出ていない、そのため調停に応じることになじまない

中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末

と市教委、校長の側から主張され、調停は令和4年3月17日に不成立となり終了したということです。

なぜ民事調停を提起したのか

訴訟を選ばなかった理由

校則規制の法的根拠や、個人の自己決定権の侵害ではないかという点について、事前に当該中学の校長や市教育委員会に対し、2度質問状を送ったが進展がなく、公の場で話を進展させるため民事調停を行ったのことで、訴訟を起こさなかった点については以下のように語られています。

訴訟には、当事者適格や確認の利益のハードルがあり、中身の議論に入るまでに時間がかかります。それに、法的な結論を出すことよりも、校則について、その必要性や限界について、多くの人が、特に教育に関係する人が、考えることにこそ意味があると思っています。

中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末

なぜ入学前に申立てたのか

本件では入学前に民事調停の申立てがされていますが、結局、子どもは別の中学校に入学することとなっています。
入学してから争えばよかったのではないのかと疑問が出るかもしれませんが、この点については以下のように説明されています。

仮に、在籍してから争っても、結果が出るまでに卒業しているのではないかと思えますし、多くの在学中の生徒・保護者は不利益をおそれて本音を言えないのではないでしょうか。

中学校校則・制服と子どもの人権―民事調停の顛末

実際、民事調停であれば裁判よりも比較的早く結論は出ますが、不成立となって裁判をすると2年、3年とかかることは珍しくなく、3年間の中学生活の途中で申立てをしても、結論が出たときには子どもは既に卒業していたり、卒業間近かもしれません。

次に紹介する裁判事例2つをみても、東京地裁の事例は令和2年に訴訟提起され令和4年11月に判決が出ていることから解決に2年以上を要しています。
大阪高裁の事例では一審の大阪地裁が平成29年に訴訟提起され、控訴審でも争われることとなり、高裁判決が令和3年10月に出ていることから解決に約5年を要しています。

また、在学中に不利益をおそれて本音を言えないという点ですが、2事例で訴訟提起がされたタイミングをみると、いずれも自主退学勧告を受けて退学した後(東京地裁事例)や、在籍はしていますが、授業等への出席を禁じられるなどして不登校となった後(大阪高裁事例)と、当該学校に登校しながらではありません。
毎日出勤している会社を相手として争うのが難しいのと同様、在学・登校中であれば、問題提起は事実上難しいでしょう。

校則は、裁判で争われることも少なくはありません。最近の2つの裁判事例で校則についてどのような判断がされたかをみてゆきましょう。

脚注

  1. 1921年(大正10年)に神戸における労働争議の弾圧に対する調査団が契機となって結成された弁護士の団体で、2021年には創立100周年を迎えている。団の目的は、「基本的人権をまもり民主主義をつよめ、平和で独立した民主日本の実現に寄与すること」であり、「あらゆる悪法とたたかい、人民の権利が侵害される場合には、その信条・政派の如何にかかわらず、ひろく人民と団結して権利擁護のためにたたかう」(規約2条)こと(自由法曹団ホームページ)。