不当寄付勧誘防止法とは
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けて、法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(不当寄付勧誘防止法)が令和4年12月に成立、交付されました。
一部の規定を除き、令和5年1月5日、同年4月1日に段階的に施行されています。
同法は、霊感商法等で寄附の勧誘を受けて寄附に応じた人が困窮したり、家庭が崩壊する事例が多発していることから、個人の権利の保護を図るという観点で成立しました。
具体的な内容としては、以下のような措置を講ずるものとなっています。
- 法人等による不当な寄附の勧誘の禁止
- 不当な寄附の勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定める
- 寄附の意思表示の取消しの範囲の拡大
- 扶養義務等に係る定期金債権を保全するための債権者代位権の行使に関する特例の創設
法人への勧告処分の基準とは?
法人等には、寄附の勧誘を行う際、自由な意思を抑圧することがないように、生活の維持を困難にすることがないように等、十分に配慮をすべきという配慮義務1が設けられ、実効性をあげるため、配慮義務の規定を遵守していない法人等には、内閣総理大臣から遵守すべき事項を示して、これに従うべき旨を勧告できるという規定も設けられました。
勧告に従わない場合に公表できる規定(同2項)、勧告をするために必要な限度において配慮の状況に関して必要な報告を求めることができる規定(同3項)も存在します。
内閣総理大臣は、法人等が第三条の規定を遵守していないため、当該法人等から寄附の勧誘を受ける個人の権利の保護に著しい支障が生じていると明らかに認められる場合において、更に同様の支障が生ずるおそれが著しいと認めるときは、当該法人等に対し、遵守すべき事項を示して、これに従うべき旨を勧告することができる。
法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律6条1項
とはいえ、この6条1項が規定する個人の権利の保護に「著しい支障が生じていると明らかに認められる場合」というのは、具体的にどのような場合なのかは法律の文言をみても明らかとはいえません。
6条1項以外にも、法律の文言だけからはどのような場合をいうのか明らかではない規定が存在します。
行政手続法では、行政措置規定を運用する際の考え方を示す処分基準を定め、具体的なものとすることが定められています。
行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。
行政手続法12条
2 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。
この行政手続法の規定を受けて公表されたのが、勧告をはじめとした行政措置規定を運用する際の基準です(令和5年4月17日付「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律に基づく消費者庁長官の処分に係る処分基準等について」)。
同基準では、勧告の要件である「著しい支障が生じていると明らかに認められる場合」について、
著しい支障が生じていることを客観的に認めることができる場合のことであり、例えば、法人等の勧誘行為につき、配慮義務違反を認定して不法行為責任を認めた判決が存在する場合や、民事調停や独立行政法人国民生活センターの重要消費者紛争解決手続において法人等の弁明を経た上で第三者の判断により著しい支障が生じていることが客観的に認められた場合が考えられる。
法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律に基づく消費者庁長官の処分に係る処分基準等について
として、判決が存在する場合だけではなく、民事調停や独立行政法人国民生活センターの重要消費者紛争解決手続において法人等の弁明を経た上で第三者の判断により著しい支障が生じていることが客観的に認められた場合も考えられるとしています。
民事調停の判断が用いられることの意味とは
元々パブリックコメントの案の段階では、「著しい支障が生じていると明らかに認められる場合」としては、配慮義務違反を認定した判決がある場合のみが示されていたようです。
判決に限定してしまうと、せっかく法令が成立して勧告等の措置が規定されたにもかかわらず、実際に勧告等がなされる場面が被害実態に比較して極めて少ないとなってしまいかねません。
まだ基準自体公表されて日が浅く、勧告に至る例はこれからですが、民事調停や独立行政法人国民生活センターの重要消費者紛争解決手続は、裁判よりも手軽で、時間的・経済的な側面からも利用しやすい手続です。
裁判よりもまずはこれらを利用して被害回復につとめる方々も多いと考えられるため、勧告がなされる場面も増えてゆくのではないかと考えられます。
脚注
- 法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律3条
法人等は、寄附の勧誘を行うに当たっては、次に掲げる事項に十分に配慮しなければならない。
一 寄附の勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、その勧誘を受ける個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること。
二 寄附により、個人又はその配偶者若しくは親族(当該個人が民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百七十七条から第八百八十条までの規定により扶養の義務を負う者に限る。第五条において同じ。)の生活の維持を困難にすることがないようにすること。
三 寄附の勧誘を受ける個人に対し、当該寄附の勧誘を行う法人等を特定するに足りる事項を明らかにするとともに、寄附される財産の使途について誤認させるおそれがないようにすること。