騒音・振動・悪臭などの私的な近隣紛争にも使える都道府県の公害苦情相談と紛争処理の制度がある

近隣紛争も公害の範疇

公害についての苦情や紛争について迅速・適正に解決を図るための仕組みとして、公害苦情相談や公害紛争処理という制度が存在します。
制度の対象となるのは「公害」ですが、この公害は、言葉からイメージされるような大規模な大気汚染や土壌汚染、水質汚濁などに限らず、身近な暮らしの中での騒音や振動、地盤沈下や悪臭、粉塵といった民事上のトラブルも対象としています。

ただ、それによって生じる被害が相当範囲にわたるものであるという限定はあります。

この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる(中略)騒音、振動、(中略)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係る被害が生ずることをいう。

環境基本法2条3項

公害苦情相談

このような近隣トラブルに直面した際、まず利用できるのが公害苦情相談です。
各市区町村や都道府県の「公害苦情相談窓口」で気軽に相談をすることができます。

公害苦情相談は、ただ相談を聞くだけの窓口というわけではなく、必要に応じて相談員が現地調査を行うなど、発生している公害についての事実関係の調査をしてくれます。

調査後は、苦情相談の内容や現地調査及び関係者の事情聴取の結果をもとに、改善策を検討し、発生源となった相手方や関係者に対し、改善に向けた指導や助言等を行います。
相談員は、解決後にも、必要に応じて公害発生現場に出向いてその後の状況を確認してくれることがあります。

公害紛争処理制度

どのような制度か

当事者間の対立が深刻だったり損害賠償額が問題となるなど、公害苦情相談では解決しない場合には、公害紛争処理制度という手段が存在します。

公害紛争処理制度は、裁判所による司法的な解決とは別に、公害紛争処理法に基づいて設けられた制度で、被害の防止や損害賠償などの紛争解決を求めることができます。
公害紛争を通常の民事訴訟で争った場合、その解決までに多くの時間と費用がかかるなど、被害者救済の面では必ずしも十分ではなかったことから生まれたものです。

民事調停と同じように、手続は原則非公開とされ、調停委員会が紛争の当事者を仲介し、相互の互譲による合意に基づき紛争の解決を図るという手続です。
必要に応じて、現地調査や鑑定人による鑑定も行われます。

公害紛争を処理する機関として、国に公害等調整委員会が、都道府県には都道府県公害審査会等1が置かれています。
国の公害等調整委員会は、被害総額が5億円以上や、生命・身体に重要な被害が生じるような重大事件、航空機や新幹線にかかる騒音といった広域処理事件を扱い、一般的な事件は都道府県の公害審査会等で扱われます。

申請のためには一定の手数料が必要ですが、民事調停よりも安い水準です(総務省トップ > 組織案内 > 外局等 > 公害等調整委員会 > 公害処理紛争制度と公害苦情相談制度 > 申請手数料)。

利用件数等

総務省のホームページでは、都道府県公害審査会等に係属した事件数や概要が公表されていますが、令和3年度(令和3年4月1日から令和4年3月31日まで)に、都道府県公害審査会等に係属した公害紛争事件は全国でわずか77件です(令和3年度に都道府県公害審査会等に係属した公害紛争事件一覧)。

公害というとどうしても四大公害病のようなものを連想してしまうため、公害紛争処理制度を身近な紛争で利用できるという認知が進んでいないことが申請件数の少ない理由の1つと考えられます。

解決事件の例

係属事件には、打ち切りとなっているものも多いですが、公表事例から調停が成立した事案例を紹介します。
終結概要には調停条項までは記載されていないため具体的な解決内容は不明ですが、申請人も受諾していることから、納得できる内容で解決していることが伺われます。

工事一時中断、粉じん等防止措置の請求

東京都令和2年(調)第2号事件
申請人は農業法人、被申請人は建設会社です。

申請人は水耕栽培を用いて果実栽培や同栽培用施設の販売等の事業を行っているところ、中央新幹線(リニア新幹線)の非常口新設工事がその隣接地で行われ、申請人の事業に壊滅的な影響を生じていた事案です。

被申請人が、工事を一時中断し、申請人の事業に配慮した対応(粉じん・騒音・振動の防止)を行うことが求められました。

7回の調停期日を経て、調停委員会が提示した調停案を当事者双方が受諾し、終結しました。

自動車製造工場からの騒音被害防止、損害賠償の請求

静岡県平成31年(調)第1号事件
申請人は静岡県の住民1人、被申請人は自動車製造販売会社です。

被申請人のA社B工場において夜中まで操業に係る騒音が発生しており、申請人が、そこか
ら発生する騒音を自宅で感じ、肉体的・精神的苦痛を受けていたという事案です。

被申請人は、以下の対応を求められました。

  • 申請人自宅で体感する騒音を防止するため、A社B工場の稼働停止も考えた上で確実な対応を行うこと
  • 対応が困難である場合は、申請人の現在の居宅と同程度の住宅への転居に要する費用、騒音を原因として発症した病気に係る医療費用、及び法律相談費用を支払うこと

5回の調停期日を経て、調停委員会が提示した調停案を当事者双方が受諾し、終結しました。

脚注

  1. 公害審査会を置いていない都道府県もありますが、公害審査委員候補者を委嘱し、名簿を作成することとされており、事件が係属する都度、臨時の附属機関として事件処理に当たります。