飼っているペットが他人や他人のペットを咬んでしまった場合の責任や対処法は?

相当な注意と過失相殺

相当な注意を尽くしていた場合は責任を負わない

飼っているペットが他人や他人のペットを咬んでしまった場合は、常に賠償をすべきというわけではありません。
民法718条ただし書きで「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたとき」とありますが、相当な注意を尽くしていた場合には、責任を負わないということもあります。

この「相当な注意」とは、通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対処しうべき程度の注意義務まで課したものではないとするのが判例です(最高裁昭和37年2月1日判決)。

とはいえ、ペットは興奮したり、飼い主の手をかいくぐって飛び出したりしてしまうことがあるものなので、実務上は、相当な注意をしていたから賠償責任がないという判断がされることというのは希です。

相当な注意をしていたと認められた裁判例としては、ドッグランの中央部に立ち入った人と犬とが接触した事例(東京地裁平成19年3月30日判決)が存在します。
ドッグランは犬が自由に走り回る場所であり、そこに人間が立ち入ること自体が危険な行為で、異常な事態にあたると判断した上で、飼い主が相当な注意を尽くしていたと認定しています。

過失相殺の事例

被害者側にも一定程度の落ち度があったと判断される場合には、裁判所は、これを考慮して賠償を損害額の何割かにとどめることがあります。これが過失相殺という問題です。

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

民法722条2項

相当な注意を尽くしていたかは、ゼロか100かという問題ですが、過失相殺は割合で認定されます。

たとえば、咬む犬であることの注意書きがあり、被害者も注意書きを認識できたにもかかわらず犬に手を差し出して被害にあった場合、被害者にも落ち度があることから、賠償額は過失相殺により減額されることとなります。

保険が使えないか確認

ペットによる事故が発生したとき、ペット保険や個人賠償責任保険に加入していれば、賠償責任を保険でカバーすることも可能となります。

個人賠償責任保険は、自動車保険や火災保険、クレジットカードなどの特約として付帯されていることがあるため、事故が発生してペット保険に加入していないという場合でも、まずは加入している他の保険や所有しているクレジットカード等でカバーできる特約がないかを確認するとよいでしょう。

自分から民事調停をすることも有効な選択肢

ペットによる事故は、散歩中など自分の生活圏内で起こることが多いです。
被害者である相手も近所の人だったり、以前から面識があったりと、事件の後も全くの他人というわけではありません。

相手にも落ち度があるから言いなりになって治療費や慰謝料を支払いたくはないが、自分のペットが原因となった問題なので、きちんと支払うべきものは支払いたい、関係を悪くしたくないと思う方も多いでしょう。
このような場合、民事調停が、円満な関係の継続に役立つことがあります。

とくに、被害者側に落ち度があったという点は、被害者に直接言う場合は角が立ってしまいがちです。
民事調停であれば、相手にも落ち度があったという事情をこちらからは調停委員に詳しく伝え、調停委員会から、過失相殺概念の説明をしてもらったり、どの程度の過失相殺が適当かということについて意見をもらうこともできます。

また、いくら払うことが妥当かわからない場合も、相当な賠償額を定めてもらえるように申し立てをして、賠償額について妥当な解決案を示してもらうということができます。