賠償責任の所在
日頃からしつけをしていても、自分が大切に飼っているペットが他人や他人のペットを咬んでしまう咬傷事故や、突進して怪我をさせてしまうなどの事故が発生してしまうことがあります。
こうしたとき、飼い主はペットが他人に加えた損害を賠償する責任を負います。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
民法718条1項
どのような損害を賠償することになるか
他人に怪我をさせた場合
ペットが他人を咬んで怪我をさせてしまった場合、主に以下のような損害項目が賠償すべきものとなります。
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害
- 慰謝料
- 着衣損害(衣類や持ち物など)
治療をしたが傷跡が大きく残ってしまったなど、後遺障害が残るような怪我であれば、これに加えて後遺障害の慰謝料や逸失利益なども賠償すべき項目となります。
他人のペットに怪我をさせた場合
咬まれたことで他人のペットが怪我をした場合は、飼い主は、他人のペットの治療にかかる費用が賠償すべき損害の項目となります。
長い入院治療をしたり、後遺症が残った場合にはペットの飼い主の精神的苦痛について慰謝料を賠償することもあります。
他人のペットが死んでしまった場合
咬まれたことで不幸にも他人のペットが死んでしまった場合は、以下のような項目が賠償すべきものとなります。
- ペットの治療費(治療をした場合)
- ペットの財産的価値
- 葬儀費用
- 慰謝料(死んだペットの飼い主の精神的苦痛について)
ペットの財産的価値について
ペットが死んでしまった場合、ペットは法的には物であり、物的損害(物損)として扱われるため、実務上はその財産的価値が問題となります。
死んでしまったペットがペットショップで買ってまもない場合などは、購入時の値段を判断材料とすることができます。
他方、死んでしまったペットがもともと無償で譲渡されていたり、雑種だったり、元々はペットショップから買っているが買ってから何年も経って老年となっている場合には、どんなに飼い主が愛情を注ぎ大切にしていても、市場価値という意味では値をつけることができません。
そのため、このような場合、財産的価値は認められないこともあります。
飼い主に発生する慰謝料について
通常、物損が発生した場合、そのものの価値を填補すれば被害は回復すると考えられるため、物損だけが発生した事故で慰謝料が認められることは原則としてありません。
しかし、財産的価値が認められるペットであっても、認められないペットであっても、ペットは、飼い主にとって大切な唯一無二の存在です。
そのため、ペットの死亡は、実務上は物損として扱われていても、死亡により飼い主には精神的苦痛が発生したとして、例外的に、慰謝料が認められるという扱いがされています。
市場価値とは違い、精神的苦痛は、むしろこれまでそのペットと一緒に過ごしてきた飼育期間に比例して増大するものとも判断されています。
裁判例としては、飼い猫が他人の犬に噛み殺された事例(慰謝料20万円 大阪地裁平成21年2月12日判決)、飼い犬のチワワがが他人の犬の突進・接触を受けて死亡した事例(慰謝料18万円 大阪地裁平成27年2月6日判決)などが存在します。
人間の受傷の場合とは比較にならない金額ではありますが、被害にあったペットが長い入院治療をしたり、後遺症が残った場合にも慰謝料が認められることがあります。