民事調停では裁判の費用を相手に請求できない分だけ損になる?

裁判では費用を相手に負担させることができる?

「裁判の費用は相手に請求できることがある」と聞いたことがあるでしょうか。
法律で定められている訴訟費用(裁判を起こす際に必要となる手数料や郵便切手代等)は、日本では、基本的には敗訴者が負担することになっており、相手に請求できることがあります。

民事調停の申立てをする場合も、裁判と同じように、訴訟費用である手数料や郵便切手は必要となります。
しかし、民事調停では、相手に訴訟費用を請求することはできず、申立人が自分で負担する必要があります。

では、裁判費用を請求できない分だけ、民事調停をした方が損になってしまうのでしょうか?
決してそういうわけでもありません。

そもそもの手数料や郵券代が安い

民事調停では、申立てをする際の訴訟費用である手数料も郵券代も、いずれも裁判を起こす場合よりも安く設定されています。
民事調停で必要なのは訴訟で必要な額の半額程度です。

(参考:民事調停とは?弁護士をつけなくてもできる解決手段の一つ!)

裁判でも常に請求できるわけではない

裁判でも、常に訴訟費用を相手に請求できるわけではありません。

判決まで至っても、請求が認められず棄却となる場合や、求めた内容の一部しか認められない場合があります。
棄却となった場合は請求できませんし、求めた内容の一部しか認められない場合は、認められた割合に応じた訴訟費用の請求ができるにとどまります。

また、裁判をしても必ずしも判決が出るわけではなく、和解が成立する割合が訴訟全体の概ね35%を占めています 1
和解の場合、通常、「訴訟費用は各自の負担とする。」という条項が和解の内容に入れられ、相手に請求することはできなくなります。

裁判では弁護士費用も必要となる可能性

裁判を起こすにあたっては、自分だけでの本人訴訟という方法もありますが、特に地裁が管轄となる訴額140万円を超えるような事件では、弁護士に依頼しないと難しいケースが多いです。

訴訟費用自体は、数千円や数万円にとどまることが大半ですが、裁判を弁護士に依頼する場合は、通常、着手金の段階で数十万円という金額が必要になります。

弁護士費用は請求できる場合があるが限定的

弁護士費用が請求できる場合と金額

故意や過失により権利侵害をされたという不法行為という類型での損害賠償請求においては、弁護士をつけて裁判をした場合、相手に弁護士費用を請求することができます。
交通事故や、医療事故、パワハラやセクハラなど精神的苦痛による慰謝料請求等がその例です。

金額は認められた損害賠償額の概ね1割とされますが、事案の内容によって裁判所が若干判断をかえることがあります。
たとえば、医療事故など弁護士をつけないと争うことが難しく、弁護士費用も比較的かかるという類型の場合には、最終的な損害賠償額が100万円台だったとしても、認められた損害賠償額の2割程度が認められることもあります。

貸金返還請求や、売買契約における不良品問題といった契約関係を原因とする損害賠償請求では、不法行為とは違い、裁判をしても弁護士費用は認められません。
また、和解解決をする場合は、弁護士費用は通常認められません。

弁護士費用が請求できる判決を選ぶべき?

では、不法行為事件では、裁判をして、和解せずに判決をもらえば一定の弁護士費用も出るからいいのでは?と思うかもしれませんが、和解と比べて判決にはいい点ばかりがあるというわけでもありません。

一審判決が出ても、判決内容に納得できない当事者は控訴して争うことができます。

相手から控訴されると、自分は判決に納得していても控訴審で争う必要が出てきて、控訴審の弁護士費用もまた数十万円程度かかることが通常です。
また、判決の場合、和解よりも相手が支払ってこないリスクは一般的に高いといえます。

保険会社など資力面に問題がない場合は判決でもよいと思いますが、相手が支払ってこないことで、判決を取得した後でさらに強制執行をする必要が出てくる場合があります。強制執行にも弁護士費用がかかります。

訴訟費用や弁護士費用を請求できかどうかという点だけではなく、トラブルの実態にあった手続きを選ぶこと、全体的な解決を考えることが必要です。

脚注

  1. 第一審の通常訴訟における終局区分は、既済事件の総数139,011件に対し、和解による終了は51,239件と36.9%が和解解決となっている。令和3年度司法統計による。